美しいあの人
芙美子さんも必死だった。
祐治の機嫌が非常に良いので焦ったのかもしれない。

あたしに電話をしてきて「返して」という攻撃こそ減っていたが、
芙美子さんは祐治を直接説得しようと試みているようだった。

芙美子さんに会って帰ってくるたびに、祐治はまた高価なブランド品を持ち帰る。
あたしに対してプレッシャーをかけるというのもあるのだろう。
「芙美子が言うんですよ。そんなに調子良く書けるようになったのだったら、
いい加減実家に戻ったらどうなのかって。
だけど、私はエリがいるから書けるのだと思っているし、
芙美子にもそれを伝えたんですけど、また怒らせてしまったみたいです」

そんな祐治の報告を聞いて、あたしはほくそえんだ。
芙美子さんのプレゼントよりも、あたしが書いているものの方が、明らかに祐治をとらえている。
あたしがキーボードを叩き続ける限り、この美しい人はあたしの側にいてくれるのだ。
だからあたしは書かなくちゃいけない。
祐治を自分の側に置いておくために。
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