美しいあの人
「ああ、やっと来た」
せんばづるへ入ると、松井さんはいつものカウンターではなくソファへ座っていた。
向かい側へ座ると、千鶴さんがビールを持って来てくれてすぐにカウンターへと戻って行く。
松井さんから、あたしと二人で話がしたいからと言われているのだろう。
もしくは松井さんの尋常ではない雰囲気を感じたのかもしれない。

松井さんは、テーブルの上に右肩をきちんと紐で綴じられた紙の束を置いた。
あたしには、それが自分の書いたものだと一目でわかった。
松井さんがなぜあたしを呼び出したのかもわかってしまった。
けれど、なにも言えない。
松井さんがなにかを言うのをじっと待つ。
「エリちゃん。これは、誰が書いた?」
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