美しいあの人
第五章

変化する日常

ダイニングテーブルの上に広げたノートパソコンに向かって、
あたしはひたすらキーボードを叩き続ける。
思うようにいかない時は、作法もなにも気にせずに
頭に浮かんだ言葉を乱暴にキーボードに叩き付けた。

恨みつらみをぶつけられたキーボードは、ダイニングに悲鳴のようなタイプ音を響かせる。
あたしは余計イライラするが、それでも書かない訳にはいかない。
松井さんには
「お前それやってたらパソコンの寿命が短くなるぞ」
とたしなめられたが、こうでもしないと書き続けられないのだ。

仮にパソコンから離れてなにか他の物に感情をぶつけたとしたら、
言葉になるはずだったなにかが全てそちらへ流れてしまって、
あたしはもう何も書けなくなって今の暮らしを失ってしまいそうな気がする。
それだけは避けたい。
あたしの中からなにか言葉が出てくる以上は、
それが稚拙なものだと分かっていても文章として残しておかなければならない、
そんな焦燥感に駆られている。
あたしにはそれしかないのだ。
祐治をつなぎ止めておくには、それしかできない。
だから書き続ける。
キーボードにその気持ちをぶつけていく。
原稿用紙換算で数枚書いたところで読み返す。
あまりに酷いのでいっそのこと全て消してやろうかと、
選択範囲をとってデリートキーを押そうとしたところで携帯が鳴った。
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