美しいあの人
「増刷だ!」
せんばづるに入ってくるなり松井さんが大きな声を出した。
「ぞうさつ?」
「そうだエリ。増刷だ!」
まあいいから座りなさいよと、千鶴さんがビールグラスを出してくれる。
松井さんが心ここにあらずという感じでスツールへ座ってビールをあおった。
「エリ、乾杯だ!」
もう口をつけてしまってから乾杯もなにもないだろうと思った。
「なににさ」
「だから増刷だよ!」
松井さんがビールグラスをカウンターに置いて、あたしの手を両手で握りしめた。
あたしは困惑する。
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