美しいあの人

「増刷だけじゃない。サイン会もやる！」
「サイン会？　誰の」
「祐治のだよ！」
増刷、
サイン会、
つまりそれは西条祐治の本がそこそこ売れているということだ。

松井さんはああでもないこうでもないと色々浮かれて話していたが、
あたしはなんだか他人事のようにそれを聞いていた。
まるで自分には関係ないことに思えた。
そして松井さんはそれを見て、思い出したように言った。
「お前にも関係あるんだよ。月間連載も決まった」
月間連載、か。
とりあえずしばらくはあたしは祐治にも松井さんにも必要とされるようだ。
あたしは喜んでいいのかどうかよくわからなくて、八海山のロックを飲み干した。