美しいあの人

あたしの反応がはかばかしくないからか、祐治がちょっと怪訝な顔をした。
「エリ？」
祐治の手の先のスーツケースを見つめる。
これもきっと芙美子さんが調達してきたものだろう。
サイン会のための旅行でスーツケースを使うのなんてまだしばらくは先なのに、
祐治は「作家がサイン会で地方へ」という事象に浮かれて、今から着替えを詰めたりしているのだ。そしてその着替えは、ほとんどが芙美子さんの見立てたもの。

サイン会ではきっとマネージャー然とした芙美子さんが常に祐治の傍らにいて、
おそらく芙美子さんは「西条祐治にもっとも近い女」として周囲から認識されるだろう。
美しい作家に美しいマネージャー。
絵になるに違いない。