美しいあの人
「寂しいですか?」
祐治がスーツケースから離れてあたしに近づいた。
あたしは思わず背を向ける。後ろからかぶさるように抱きすくめられた。
「寂しくさせてしまってごめんね。でもちゃんと帰ってきますよ」
肩から降ろされた祐治の手を握る。涙があふれた。
腕の中で向き直って、祐治の胸に顔を埋めて泣いた。
泣き顔は見られたくなかった。
以前に見た芙美子さんが泣く姿は、美しかった。
あたしの泣き顔なんか美しくはない。
作家になるという夢を叶えて、その美しさをさらに際立たせている祐治に、
あたしの醜い泣き顔なんか見せたくなかった。