美しいあの人
祐治さんは、あたしが黙っているのにも頓着せずに
セブンスターに手を伸ばした。
あたしは慌てて火をつけようと自分のライターを差し出す。
祐治さんがびっくりしたような顔をした。
あたしもびっくりされたことに驚いて、出したライターを引っ込めた。
「すみません、つい仕事柄」
祐治さんは、自分のライターでセブンスターに火をつけた。
「いえ、こちらこそ。
驚いちゃってすみませんでした。慣れていないもので」

低すぎない声があたしの耳をくすぐる。
あたしはその声を忘れたくないと思うけれど、
そう思えば思うほど、自分の口を開くきっかけをなくしていく。

その口を無理矢理に開かせたのは祐治さんの一言だった。

「昨日も、いらっしゃいましたよね」
「うそ」
思わず出たのはそんな言葉だった。
祐治さんが良い声で笑った。
「嘘じゃないでしょう。私が来た時には男性と一緒にカウンターに座ってらした」
あたしは狼狽する。
「え、いや、いたのはホントなんですけど、まさか覚えてると思わなくって」
嬉しくて、と続けそうになったのをやっとのことで押さえた。

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