美しいあの人

「どうしてなにも言ってくれなかったんだろう」
あたし達は黙り込んだ。
「あいつも成功回避なんだろうか」
松井さんが、テーブルに足を投げ出す。
テーブルの上に置かれていた小さな雛人形が倒れたので、あたしはそれを元の位置に戻した。
「成功回避?」
芙美子さんが松井さんに問いかける。
「ああ。最初エリがそうだったんだ。
いいことばっかりありすぎると、これは本当じゃないんじゃないか、
もっとダメなのが本当なんじゃないかって、辛い方へ行こうとする。
せっかくエリが自信を持てるようになったのになあ。どこいっちまったんだ」
「私たち、祐治を甘やかしすぎたのかしら」
どっちも違うような気がした。

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