美しいあの人
「芙美子さんは、祐治のことはもういいの?」
芙美子さんの目が、大きく見開かれる。
ぽかんと口まであけて美人が台無しだ。
そう思った瞬間に、芙美子さんはあたしから目をそらして拗ねたように言った。
「元々祐治は私のことなんか全然見てなかったじゃない」
マグカップに伸ばされた芙美子さんの左手を見たら、
以前つけていたカルティエのマリッジリングが外されていた。
いったいいつからなんだろう。
あたしは仕事にかまけていて、身近な人の様子にさっぱり気がついていなかったようだ。
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