美しいあの人
ビールを一口飲んでから思い切って話してみる。
「あのね。今朝ホストに行ったんだけど楽しくなかったの」
「そうか」
松井さんは焼けた椎茸をあたしの皿に乗せてくれようとしていた。
「それがね。ホストよりも自分の好きな男の方がよほどカッコいいと思ったからなのよ」
「はあ?」
松井さんの箸から椎茸が落ちて、それはテーブルからさらに汚れた床へと落ちて行った。
そんなに驚かれると思わなかった。
「なんだお前、本当に恋の病なのか」
あたしは大きくため息をつく。
「認めたくないけどそうみたいなのよねー」

松井さんがあきれた顔をして、ジャケットの内ポケットからホープを取り出して火をつけた。
あたしはライターを出すのも忘れて、松井さんのその手元をみながら、
一緒にこうしているのが祐治さんだったら良かったのになあなんて考えている。
松井さんが煙を吐き出してから、まじまじとあたしの顔を見る。
「重症だな」
「そうかしら?」
わざとらしく小首をかしげてみるが、松井さんは笑わなかった。
「片想いなのか」
いきなり聞かれたので素直に頷いてしまった。
「そうか。俺がエリちゃんと知り合ってどのくらい経つかな」
「二年くらい経つかも?」
「こうやって食事にも何度も来ているけどな」
うんうんそうですね。あたしが黙って頷くのを見て松井さんが吹き出した。
「俺のタバコに火をつけるのを忘れたのはこれが初めてだ!」
ああああ! 
すみませんでした! 
慌ててテーブルの上のライターを取り上げる。
もちろんそんなのとっくに遅い。
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