美しいあの人
リビングでバックの中身をごそごそやっていると、テーブルにあたたかい紅茶が置かれた。
「はい。アールグレイですよ」
「ありがとう」
素晴らしいことに、祐治は美しいだけでなく家事全般にも優れていた。
祐治はあたしが働きに出ている間に小説を書いているそうなのだが、
あたしが帰宅して眠っている午前中は、掃除洗濯をしてくれたり、食事を用意してくれたりする。
「置いてもらってるんだからそれくらいのことはしないとね」
そんな風に言うけれど、あたしは祐治がいてくれるだけでも嬉しい。
あたしの苦手な家事までしてくれて申し訳ないような気がする。でも誇らしい。

あたしの前で、祐治がお茶を飲んでいる。
家にいてもやはり祐治は美しい。お茶を飲んでいる姿すらも。
美しい姿を見てため息をつく。
こんな美しい人が自分の家にいて料理や洗濯までしてくれるなんて。あたしはとても幸せだ。
「どうしたの?」
「仕事行きたくないなあって」
「どうして」
「祐治と一緒にいたいから」
祐治が笑った。この顔が好きだ。
「だめですよ。ちゃんと働かないと」
「いやまあそりゃあそうなんだけど」
「大丈夫。エリがお仕事終わって帰ってきても、ちゃんといるから」
「ほんとに?」
「ほんとに」
よかった。あたしは安心してお茶を飲む。

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