美しいあの人
「エリちゃんそれヒモっていうんだよヒモ! わかるう?」
久しぶりにヒマな日で、待機席で雑談していたらアンナから指摘された。
アンナの方から「彼氏どうなのよ」って聞いてきたから答えただけなのに。
ご飯作ってもらってるとか自慢したからか。
「え、や、でも別にあたしの稼ぎで暮らしてるわけじゃないし」
怪訝な顔をされた。
「でも定職ついてないんでしょ〜?」
「あーまあ、会社員とかじゃないしねえ」
香織まで話に入ってくる。
「エリちゃんの彼氏ヒモなのお?」
「いやだからヒモじゃないって」
アンナがまぜっかえす。
「けど、定職ついてなくってエリちゃんとこで家事してんでしょ? ヒモじゃんヒモ」
香織がさらにつつく。
「エリちゃん彼氏無職う?」
「無職じゃないよ。家で仕事してるよ。ほらSOHOってやつよ」
SOHOがなんなのか、言ってるあたし自身もよく分かってないが、
作家だからと言ってもめんどくさそうなのでそう答えておいた。
「で、その家ってのはエリちゃんの家なわけじゃん?」
アンナめ……。
「貢いでんのぉ?」
香織が単刀直入に言う。興味津々のようだ。
「貢がないよ。物を買ったことはないよ」
「あ、じゃあヒモじゃなくない?」
アンナがあきれた声を出した。
「かおりい、あんたの基準は物を買うかどうかなわけ?」
「だって物を貢いだりしないんだったらただの同棲じゃん」
「そうそう、ただの同棲よ。ヒモじゃないって」
あたしはそこで話を打ち切った。
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