美しいあの人
「そうかー。いい男なのかー。そうかー」
松井さんが繰り返す。
千鶴さんがそんな松井さんをからかった。
「悔しいんでしょう」
松井さんが、音を立ててビールジョッキを置いた。
ソファ席に座っている他のお客さんがその音にびっくりする。
「ごめんなさいねえ。今日この人振られたから」
千鶴さんがさらに茶化した。
ソファ席の人たちも小さく笑う。
松井さんが時々あたしを連れてくるのを知っている人たちだ。
「違うっ! 振られてない!」
「振るも振られるも、松井さんはお客さんだよ」
松井さんがあたしを見て半笑いの顔になる。
「そうだよなあ。エリちゃんは俺のことなんかそれくらいにしか思ってないもんなあ」
「ていうか、そういう話になるのを最初からわかって連れてきてるでしょう」
せんばづるではあたしはただのエリになる。
我ながら優しくないとは思うが、
松井さんもここであたしにキャバクラ嬢のエリになられたらあまり良い気はしないはずだ。


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