美しいあの人
「お前そりゃあ、成功回避というんだ」
「せいこうかいひ?」
そう、と頷いて松井さんはビールを一口飲んだ。
「こうなったらいいのにと思いながら、でもうまくいかないほうがいいような気がする。
ダメなほうが誰かに保護されるような気になるんだ。
で、うまくいかなかった時に、ほらやっぱりうまくいかなかった、
と思えばその分傷つかないですむ」
「またなんか難しいことを言う」
「難しかあないさ。エリちゃん、もしそれダメになってたら俺にすぐ言ったろう」
そうかもしれない。
だけど、その成功回避というのが
今の気分にぴったりくるかといったらそうでもないような気がする。

「ダメだったら俺はがっかりしない。うまくいったから俺はちょっとがっかりしてる」
「やっぱりがっかりしてるんじゃん」
ははは、と松井さんがわざとらしく笑った。
ソファ席のお客さん達も帰って、千鶴さんがカウンターに戻ってきた
「でもさあ」
あたしは千鶴さんに、温かいお茶をお願いする。
「正直あたしよくわかんないんだよね」
誰も何も言わないので、そのまま続けた。
「つきあってるのかそうでないのかはっきりしないのって微妙だよねえ」
え? と松井さんと千鶴さんの声がそろった。
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