美しいあの人
第二章

プレゼントとジェラシー

あたしが仕事に出る時、祐治も「今日は知人に会うので」と一緒に家を出た。
玄関先で祐治はあたしの額に軽く口づける。
「エリ、今日は夕飯を用意できなくてごめんね」
「大丈夫。祐治が帰ってきてさえくれればそれでいいんだから」
「ありがとう。エリがいるから私はこうしていられるんだね」
美しい人が常に自分の部屋にいるということ、
そしてあたしの身の回りの世話をしてくれるということにあたしは酔っていた。
なので、祐治の仕事がどうなっているのかとかそんなことは気にしなかった。
あまりうまくいっていないというのは聞いていたので、支えてあげたいと思った。
仕事を終えてマンション前でタクシーを降りたら、
祐治がエントランス前にある植え込みの柵に腰掛けていた。
「そろそろ帰ってくる時間だなと思って、待っていました」
嬉しくて駆け寄ろうとし、祐治の手にしているヴィトンの紙袋に目が止まった。
「買い物してきたの?」
祐治が紙袋に目をやる。
「ああ、頂き物なんです。財布をいただいてしまって」
「そう、良かったねえ」
あたしと祐治は手を取り合って部屋へと戻る。
キャバクラ嬢であるところのあたしは、ばかなことにこの時違和感をまったく感じなかった。
人様から物を、しかも身につける物をもらうということに自分自身が慣れていて、
キャバクラ嬢でない人がそういう事態に遭遇するのは特別なことなのだというのに、
まるきり気がつかなかったのだ。
その後も幾度かそういうことがあったのに、
なんとも思わないでいたあたしはほんとうにばかだった。
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