美しいあの人
もともとパスタは好きだが、祐治のパスタはお店で食べるよりもおいしくて、本当に感心する。
美しいうえに料理も掃除も得意だなんて信じられない。
あたしなんか料理なんてほとんど出来ないのに。
向かい合ってパスタを食べながら祐治を眺める。
なにか話さなくちゃと思うとなにを話したらいいかいまだにわからなくなる時があって困る。
祐治もあたしももうパスタを食べ終えそうなのに。
ああそうだ。買い物の話をすればいいんだ。
「いろいろ買ってきたね」
「そうですねえ」
さっきまでキッチンに立っていたので祐治はシャツの袖をまくっていた。
でかけていたからか左手首にいつもはしない腕時計をはめている。
よくよく見ると、その時計はブルガリスポーツだった。あたしはさらに感心する。
「祐治ってさ……」
「はいなんですか」
祐治は、あたしの視線が腕時計を向いているのに気がついていないようだった。
「なにげに身につけるものは高級品だよね」
腕時計に向いているあたしの視線を感じたからか、祐治がフォークを置いて時計を眺める。
その祐治の表情がちょっと曇ったように見えた。珍しい。
「ああ、やっぱり……。高いんですよね」
あたしは慌てる。
「別に高い物が悪いって言ってるんじゃないよ。似合うからいいと思うし」
祐治の顔がさらに曇った。
「似合うと思いますか」
あたしはさらに慌てる。
「似合うよ。祐治かっこいいんだし。いいもの着た方がいいよ」
「似合いますかねえ」
食卓の空気がちょっと重くなった。
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