美しいあの人
祐治がブルガリスポーツをはずして、
食べ終えて空になったパスタ皿をあたしの分まで黙ってキッチンへ運ぶ。

あたしはダイニングテーブルに置かれた時計を眺めながら、どうしたらいいかわからないでいる。
高い物を買っていることを責めているんじゃないのに、祐治はそう思ったんだろうか。
そのお金で家賃を折半してほしいとか、食費を入れてほしいなんてまったく思っていないのに。
「洗い終わったら、お茶を入れますね」
祐治が、キッチンから声をかけてくれた。

あたしは、どうしたらいいかわからないまま、ダイニングチェアに座りっぱなしで黙って頷いた。

どうしたら祐治の機嫌が直るか、それだけ考えている。
せっかく戻ってきてくれたのに、
あたしの不用意な一言が祐治を失うきっかけになってしまったらどうしよう。
あたしが言ったことで祐治がいなくなってしまうかもしれない。
また悪い方に考える。
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