美しいあの人
うつむいていたら、祐治があたしの頭に手を乗せた。
「エリ。聞いてほしいことがあるから、ソファへ行きましょう」
あたしはのろのろと立ち上がって、リビングのソファへ移動した。
聞いてほしいことってなんだろう。
祐治はマグカップをふたつローテーブルに置いてあたしより先にソファに座った。
マグカップには温かいカフェオレが注がれている。
祐治がソファの真ん中に座ったので、あたしはどこへ座ったらいいか悩んだ。
どう考えてもこの流れだと楽しい話ではなさそうだ。
そんな時に隣に座るのはちょっとはばかられるような気がする。
かといってテーブルを挟んであたしだけ床に座るのもどうかと思う。
うつむいたまま立って考えていたら、笑い声がした。
「どうしたの。隣へ来たら?」
クッションを整えながら、祐治は少し右へずれて
あたしの座る位置を作って、ソファをぽんぽんと叩く。
「それとも、膝へ座りますか?」
いつもの祐治の笑顔だった。だけどあたしの気分はまだ重い。
「そんな膝に座って甘えて聞けるような話なの」
つい刺々しい言葉を口にしてしまう。祐治が目線を床へ下げた。
「エリにとってはあまり楽しい話じゃないかもしれない。
だけど、私はエリに側にいてもらいたい」
そう言われているのにわざわざ拒否するのも、
こちらが祐治を拒否しているように誤解されてしまうかもと思って、
隣に腰掛けることにした。
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