美しいあの人
座るなり、祐治に強く抱きしめられた。
あたしも祐治の肩に頭を預け、彼の背中に両手を回す。
髪を撫でられる。あたしはこの感触が好きだ。耳たぶをつままれ、ささやかれる。
「ほんとに私はエリを必要としてるんですよ」
嬉しいけれど、答えられない。
だって、その次に言われることは「でも出て行かなくちゃ」かもしれないから。
何を言われても取り乱さないようにしようと身構えた。また笑われる。
「そんなに緊張しないで。なにを怖がってるんですか」
祐治の肩を両手で押さえて、彼からちょっと離れてみる。
祐治はあたしの背中に回した手を離してくれない。
美しい顔に向かって、不安をそのままぶつけてみる。
「だって出ていくとかもう会わないとかそういう話じゃないの?」
美しい顔は、驚いて形の良い目を見開いた。
「なに言ってるんですか。そんなこと言いませんよ」
あたしのあまり美しくない顔も驚きの表情を隠せなかった。
「え、そうなの?」
「だから言ってるじゃないですか。エリが必要なんだって」
少しだけ安心するけれど、何を言われるのかまだ不安。
< 53 / 206 >

この作品をシェア

pagetop