美しいあの人
さすがにちょっとかちんときた。
これまでずっと祐治がいてくれさえすればそれでいいと思って、
彼のプライベートなことには関心を持たないようにしてきたが、
そんな中途半端に他の女の存在をにおわせておいて、
気にしたら負けだから気にするなとはどういうことか。
だったらそんなことはずっと隠しておいてくれた方がよほど親切だ。
しかも高級品を定期的に買い与えられ、それを日頃身につけている、
そしてそれはあたしの目にも入るわけで、さらに言えば今日の買い物を開けたのはあたしだ。
他の女から買い与えられたものを開封させられたうえに、
自分のクローゼットにご丁寧に畳んで保管してやり、
あまつさえ「似合うからいいと思う」とまで言ったあたしはまるきりアホではないか。

あたしは肩に回されていた手を自ら外して、カフェオレを一口飲んでから意を決して口を開く。
カフェオレはもう冷たくなってしまっていた。
あたしの言葉もなんだか冷たくなってしまうような気がしたが、止められなかった。
「そんな風に半端に話して気にするなって言う方がどうかしてるでしょう。
気にならない訳ないじゃない。
それともあたしも祐治に似合うような高価なものを貢いであげたらいいの?」
祐治が悲しそうな顔をする。
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