美しいあの人
あたしと千鶴さんはベトナム料理屋に入り、
それぞれフォーを頼んだ他に生春巻きやパパイヤのサラダを注文する。
「フォーって好き」
「私も嫌いじゃないけど、そんなにしょっちゅう食べたい物でもないわねえ。
こうやってたまに食べるからいいのよ」
「あたし蕎麦とかラーメンじゃないあったかい麺が好きなんだよね。パスタとかさ」
「エリちゃん料理するの?」
「しない。最近は全部祐治がやってくれる」
「それはそれは」
あたしはフォーをレンゲの上で冷ましながら愚痴を言った。
「すごくいい男だと思うのよ。見た目もいいし家事もできるし、性格も温和だし。なのに」
「女にだらしない」
千鶴さんが皿の上でうまくつかめない生春巻きを箸で転がしながら
あたしの言葉を途中から持って行った。
「というのとは違うと思うけど……」
「違わないわよ。だって押されたら断れないってことじゃないの」
「あーまー。そうかもねえ……」

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