美しいあの人
あたしは確かに祐治のことが好きで仕方ないし、
できることならあたしだけを見てほしいと思うけれど、
それでも祐治を縛り付けておくことはできないだろうとあきらめてる部分がある。

なぜかはわからないけど、
芙美子さんのように「あたしを見て、あたしを愛して」と懸命に迫ったところで
祐治は自分の物にはならないような気がするのだ。

祐治が求めるものを与えたいと思うし、
それがあたしの愛情なのか、それとも住むところや食事なのかはわからないけど、
エリに側にいてほしいと言われる以上は側にいたい。

あの美しい姿を眺めていられて、なおかつそんな美しい人が自分のことを抱いてくれる。
それだけでも十分な気がするのだ。

初めて芙美子さんのことを聞いたときの、祐治のあまりにも浮世離れした感じ、
浮き世離れというかむしろ頓着しない感じ。
それを見て、ああこの人はこうなんだなとあきらめたのかもしれない。

「やっぱりあたし、プレゼントは買わない」
「あらそう？」
千鶴さんが、小豆の入ったチェーをスプーンですくいながらあたしの顔を面白そうに見た。
< 72 / 206 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop