美しいあの人
「きっとね。これであたしが何か身につける物を買ったりしたら、
やっぱり祐治はなんにも気にしないでそれを普段使うと思うのよ」
「ま、聞いてる以上はそういう人みたいよね」
「それで、芙美子さんと会ったときにそれどうしたのって聞かれたら、
これはエリからもらったって言うと思うのよ」
「そうでしょうねえ」
「そしたら芙美子さんはさ」
 千鶴さんが、デザートスプーンをお皿に置いて笑いながら言った。
「同じもので、さらに高い物を次に会った時に渡す」
「やっぱりそう思う?」
千鶴さんが頷いてさらに続けた。
「それで、誰がくれたとかどっちが高いとかは関係なく、
彼自身が使いやすい方を選んで使うんでしょうね」
「でもあたし達はそれを見て、
ああ自分のが選ばれたからあたしの方が好かれてる、とか思っちゃうのよ」
「それってすごく」
「ばかばかしい気がして」
ベトナムコーヒーは少なくなると、練乳が沈んでただ甘いだけ。
あたしはその甘いコーヒーを喉に流し込む。

甘い物は好きだけど、甘すぎるのはちょっとだけ不愉快な感じがする。
あたしが祐治を好きな気持ちに振り回されたくないと思うのは、
それに夢中になって祐治の気持ちを不必要に気にしてしまいそうになるからだ。
それはこの甘すぎるコーヒーと同じようにあたし自身にとって不愉快な気がする。
祐治が誰を好きでも、あたしも芙美子さんも祐治を好きだということに変わりないのだ。
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