美しいあの人
西武だとジュンク堂帰りの祐治と鉢合わせしてしまうかもしれないと、
あたしたちは東武へ行った。
アフタヌーンティールームへ入る。
そこそこ混んでいたが、奥まった席に座ることができたのでゆっくり話もできそうだった。
少なくとも聞いて嬉しい話ではないだろうけれども。
セーラムを取り出そうとしたらとがめられた。
「禁煙よ」
「ごめんなさい」
うわずった声で小さく謝罪する。
芙美子さんの声は、硬質だった。
スキの無いファッションに落ち着いた声。
綺麗な、年上の、普通の仕事をしている、自信たっぷりの美人。
その向かいに座っているのは、
地味な顔をメイクと巻き髪で盛った、二十二歳の、
全然自信のないキャバクラ嬢。
同じ男を取り合って、どちらが愛されているかを競っている。
けれど、あたしの姿を見て芙美子さんは満足したのではないだろうか。
「私のことは、聞いているでしょう」
「はい」
芙美子さんが優雅に紅茶を飲む。
カップをソーサーに置く、かちりという音が聞こえた。
言いたいことはたくさんあったはずなのだ。
マンションから東武へ歩いてくる間、
あたしたちはずっと黙っていたが、あたしは言いたいことを色々考えていた。
だけど、それを言ってしまったら負けを認めてしまうような気がしてなにも言えなくなっている。
今ここで負けが似合うのはあたしの方だ。
たとえ祐治があたしの元にいたとしても。
どんなに頑張ってもあたしはまがいもので、
今目の前にいる優雅でセンスの良い大人の女性には勝てる気がしない。
あたしたちは東武へ行った。
アフタヌーンティールームへ入る。
そこそこ混んでいたが、奥まった席に座ることができたのでゆっくり話もできそうだった。
少なくとも聞いて嬉しい話ではないだろうけれども。
セーラムを取り出そうとしたらとがめられた。
「禁煙よ」
「ごめんなさい」
うわずった声で小さく謝罪する。
芙美子さんの声は、硬質だった。
スキの無いファッションに落ち着いた声。
綺麗な、年上の、普通の仕事をしている、自信たっぷりの美人。
その向かいに座っているのは、
地味な顔をメイクと巻き髪で盛った、二十二歳の、
全然自信のないキャバクラ嬢。
同じ男を取り合って、どちらが愛されているかを競っている。
けれど、あたしの姿を見て芙美子さんは満足したのではないだろうか。
「私のことは、聞いているでしょう」
「はい」
芙美子さんが優雅に紅茶を飲む。
カップをソーサーに置く、かちりという音が聞こえた。
言いたいことはたくさんあったはずなのだ。
マンションから東武へ歩いてくる間、
あたしたちはずっと黙っていたが、あたしは言いたいことを色々考えていた。
だけど、それを言ってしまったら負けを認めてしまうような気がしてなにも言えなくなっている。
今ここで負けが似合うのはあたしの方だ。
たとえ祐治があたしの元にいたとしても。
どんなに頑張ってもあたしはまがいもので、
今目の前にいる優雅でセンスの良い大人の女性には勝てる気がしない。