美しいあの人
「なにか言ったら」
芙美子さんが、お茶を注ぎ足しながらあたしを促す。
芙美子さんのオーバルに整えられた爪に
つるりとしたベージュのネイルカラーが塗られているのを眺めてから、
自分の長い爪の上にたくさん乗せられたスワロフスキーを見て、
やっぱりまがいものだなあと思う。

「なにかって……」
芙美子さんがあきれたようにあたしの顔をまっすぐに見た。
「派手なくせにぼんやりしているのね。
夜のお仕事の若い人はもっと威勢のいいものだと思っていたわ」
ああ、割とそう思われがちですけど誤解です。

大半のキャバクラ嬢はこのように良く言えばアンニュイ、悪く言えば無気力です。
「すみません」
キャバクラ嬢の誤解を解いたところでどうともならないだろうからとりあえず謝ってみる。 
芙美子さんは余計にいらついたようだった。
「それって、私から祐治を奪ってすまないってこと?」
そんなつもりじゃないです。奪ったつもりも無いし。
あたしは思い切り顔を横に振った。
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