美しいあの人
「しばらく連絡がなかったんですけど」
ベッドに入ったら、先に寝ていた祐治が突然声をかけてきた。
「誰から」
祐治が腕を伸ばして来たので腕枕をしてもらう。
薄暗がりの中でも祐治は美しい。
この整った顔を見ながら眠りにつけるのは幸せだ。
けれど、祐治の口から彼女の名を聞くことは幸せではない。
連絡があったというのはおそらく彼女のことだろう。

「芙美子から。今日の夜電話があって。
なにか用なのかと思ったんですが、別にそういうわけでもなく。
妙なことを言ってましたけど」
あえてあたしは返事をしなかった。

芙美子さんに会ってからひと月ほど経ったが、芙美子さんのことを考えないようにしてきた。
祐治の口から彼女のことが話されることもなかったし、
芙美子さんと祐治が婚約しているかどうかもわざわざ確かめたくなかったので、
あたしは芙美子さんと会ったあとも祐治には何も言わずにいたのだ。
彼女に会ったことすらも。

あたしと祐治の暮らしがそのままである限りはなにも言わずにいようと思っていた。
それに、あたしはまだ芙美子さんに勝てる要素をなにも思いついていなかった。
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