カクテル~Parfait Amour~
『妃緒 vol2』


1月の終わりの会社でのリストカットから数日で、妃緒は一旦落ち着きを取り戻した。そしてごく自然に、金曜日の夜から月曜日の朝まで俺の家で過ごすようになった。
4月から妃緒の会社の合併とそれに伴う移転が正式に決まったようだったが、業務内容も変わらず、私物を持っていけばいいだけとのことだったから、しばらくは平和な日々が流れていた。

3月半ばの土曜日、妃緒の精神科の定期通院の日だった。
「行きたくない。」
そう呟いた妃緒の顔に、いつもよりキツい化粧が施されている意味など知る由もなかった。
その時の俺は、妃緒には薬と専門医の治療が必要なのだろうと考えていたから、ごく普通に送り出した。

数時間後、妃緒が帰ってきたが一向に部屋に入ってこない。
ガサガサという物音を聞き付けて玄関へ向かうと、妃緒が泣きながら薬をぶちまけていた。
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