カクテル~Parfait Amour~
「もういやだよ。
普通に仕事できてたって、高裕さんに大切にしてもらえてたって、いくらがんばってお化粧してたって、あの病院に入っていく私は精神病なんだって見られるんだよ。
初めて手首切った時だって、医者に怒られただけ。
暗い廊下で二時間も待って、こんなに薬だされて。
半年以上たつのに薬増やされる一方。」

泣き崩れる妃緒を抱き止めることしかできなかった。
「薬、何日分あるの?」
「今日出されたのは二週間分。あまってるのとか頓服合わせたら、三週間分はあると思う。」

泣き止んだ妃緒は、家事をこなし、仕事を終えた俺と駅前のファミレスで食事をしたあと、深夜まで営業しているスーパーをぐるぐる回るといういつものコースをたどった。

だが、睡眠薬を飲んでも寝付けないらしく、何度も何度も俺の手を握る力を強めてきた。
俺のパジャマの胸元は乾いたままだったから、そこまで深く考えずに握り返し、背中を撫でた。

だけどこれは、妃緒が泣けないほどに苦しんでいたというサインだったのだ。
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