カクテル~Parfait Amour~
「高裕さんと出逢ったばっかりの頃は、欲しいものなんて何も思い浮かばなかった。私が存在していたことをみんなの記憶から消して、私自身も消えてしまいたいって思っていたから。そう言ったら高裕さん、すごく悲しそうな顔したの。
婚約指輪をもらった時もね、うれしかったけど、すごく重たい、大きすぎるなって思っちゃってた。」
そう言う妃緒の左手の薬指にはもう、マリッジリングがすっかり馴染んでいる。
「後ろめたいことがないから、形に残せるんだろうね。幸せなことだね。」
とは言っても、何もなくても一緒にいられれば幸せだと、この二人は微笑むだろう。

「今思えば、逃げようとしていたんだろうな。ただ好きで一緒にいるっていうだけの時は、責任なんてなかった。
でも、婚約者として扱われるようになって、今までどおりに甘えているだけでは、二人で幸せになるなんてできないんだって気がついたんだ。だからこそ、不安で自信がなくて、逃げたいっていう気持ちがあったのかな。」

水野さんの体を心配してここで泣いた日から、もうすぐ一年になろうとしている。



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