カクテル~Parfait Amour~
九月最後の日をむかえて二時間ほど経ったころ、スーツこそ着ているものの一目でサラリーマンではないことがわかる男性が、一人で入ってきた。この店にそういった男性が一人で来ることはめずらしい。
「いらっしゃいませ。」
僕はメニューとおしぼり、コースターを並べる。

「メニューにないものも、作ってもらえますか?あまりこういうところにはこないものですから。」
「はい。お好みのものはお有りでしょうか?」
その男性はリキュールの棚に視線を当て、何かを探している。

「仕事の先輩に聞いたのです。『完全なる愛』という名前を持つリキュールがカクテルになると、『叶わぬ恋』という意味を持つのだと。」
この話を語れて、この町特有の職業の男性と接点のある人はそう多くはないはずだ。
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