カクテル~Parfait Amour~
  『スプリング・オペラ』


本番前の緊張には、何年経っても慣れることはない。そして、本番が終わって人のいなくなったステージに登ることが好きなのも、もう20年も変わらない。

今日は春の特別イベント、野外ステージでの声楽コンサートが催されていた。ぼくはピアノ伴奏者の一人として出演した。
久しぶりに着た演奏会用の正装から着替え、日が落ちて人のいなくなった野外ステージへと向かった。
歌声が聞こえる。
今日歌われた曲の中の一曲ではあったが、この曲を歌った人とは声が違う。専門的な声楽の勉強歴は浅いが、決して下手ではない。耳はいいようだ。この曲はぼくも何度も伴奏したことがある。
まだしまわれていないピアノと反対側に歌声の主がいる。ぼくは鍵盤の前にそっと座り、伴奏を合わせた。

彼女はこちらを振り向いたが、最後まで歌いきった。
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