カクテル~Parfait Amour~
話したことのない時間を埋めるように、夢中で話した。ぼくは音楽大学に進み、中学校の音楽教師になって二年目。彼女は文学を学ぶ大学の四年生になっていた。

「あのままずっと、鍵盤にだけ向かう生活をしていたら、音楽を嫌いになってしまいそうな気がしたの。
自分で演奏できることのすばらしさに、離れてみて初めて気がついた。どんな芸術もつながっているのね。
やっぱり私は、音楽がない人生はいや。」
「大丈夫。音楽は、君からもぼくからも勝手にいなくなったりはしない。
ぼくもずっと、君の隣からいなくなったりしない。」

ぼくたちはまだ、相手のことをよく知らない。いくら好きでも、すれちがうこともあるだろう。
だけどぼくたちは、その乗り越え方を知っている。ピアノのレパートリーを増やしてきたように、時間をかけることと誠実に向き合うことを恐れたり投げ出したりしなければ、必ず応えを出せる。
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