カクテル~Parfait Amour~
今年初めて接近するかもしれないと言われていた台風が大きな被害をもたらすことなく通り過ぎてから数日後、開店直後の店に電話がかかってきた。
「もしもし、妃緒です。ほかのお客さんはいる?」
「いや、まだ開けたばかりだしね。わざわざ電話してくるなんてどうしたの?」
「行きたいんだけど、たばこの煙がちょっとね。」
「今日みたいな平日はいつも、混むのはもっと遅い時間からだよ。」
「じゃあ、大丈夫かな。」
今日は特別に話したいことがあるのだろうか。
どうしても気になるようなら、少しの間『CLOSED』の札を出すという手もある。

駅にいると言っていたから7、8分で来ると思っていたが、ドアが開いたのは15分は過ぎたころだった。
「体調がよくないの?ゆっくりだったから、少し心配したよ。」
顔がほっそりしたように見える。
「万全ではないかな。でも、大丈夫よ。」
笑い方はいつもの妃緒だ。
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