カクテル~Parfait Amour~
便箋には、涙の跡がいくつもあった。
泣き虫の彼女が必死に記したのだ。

消印は、ぼくたちが最後にでかけた海辺の街のものだ。
とにかくその街へ行こうとぼくは立ち上がった。

携帯電話が光る。公衆電話からだ。彼女にちがいない。

「もしもし、手紙読んだよ。」
電話の向こうで泣いているのがわかった。
「どこに、いるのかな…?」
「あの海辺の街で、一人で暮らしているの。
病院も近くにあるのよ。
私、両親も兄弟もいないでしょう。でも、親戚のおばさん夫婦が面倒を見てくれているから、生活の心配はないの。」

「今から行くよ。
あと二時間。」
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