カクテル~Parfait Amour~
「どうしてあなたが泣くの?」
彼女は首をかしげた。

ぼくは明日、彼女を手にかけるのだ。

「そうだね、おかしいね。
苦しかったのは、君なのにね。」
必死に涙をこらえたつもりだった。
どうして涙というものは、耐えなければならない時に限って、あふれるのだろう。

いつかぼくは父に教えられた。
大人になったら男は、母親と妻が亡くなった時以外は泣いてはいけないのだと。
彼女はまだぼくの妻ではない。
彼女を妻にするためのぼくの準備がおいつかなかったのだ。
それにぼくは一生、彼女以外の女性に、妻にしたいという感情を抱くことはないという確信がある。

だからぼくが、命を終えようとする彼女を思って涙を流すことはゆるされるだろう。

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