カクテル~Parfait Amour~
劇場を閉める時間になり、公演関係者以外は流れで居酒屋へ向かった。
俺は妃緒に声をかけるタイミングを見計らった。

神様はいたのだ。

向かいに妃緒が座った。妃緒の隣には、さっきの女の先輩が、まるで姉のように座っていた。
俺と友人、妃緒と妃緒の先輩としばらく四人で話すと、妃緒の顔から緊張がとけ、笑顔になった。
この笑顔がずっと俺の隣にあってほしい、そんな感情が沸き上がってきた。

周りは思い思いに席を移動し始めたけれど、俺と妃緒は動かなかった。
思いきって声をかけた。

「妃緒ちゃんってかわいい名前だね。
この人達と仲がいいってことは、大学の劇団の人なのかな。」
「はい。私は今年の春に卒業して。この中では一番年下です。
水野さんは、失礼ですがいくつ上の上級生の方ですか?」
名前を覚えてくれていただけで、顔がゆるんだ。
「俺は、妃緒ちゃんの八才上。でも大学とは関係ないんだ。
ほら、さっき一緒に話した俺の友達の仲間が、今日の芝居で照明やってたから。」

初めこそおとなしかったが、大学で勉強していたという文学のことや、三才から続けているピアノ、ミュージカルや料理、編み物、着物が好きだと話してくれた。
「大和撫子だね。」
そう思わず口にすると、妃緒は俺の目をまっすぐに見てほほえんだ。
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