カクテル~Parfait Amour~
食べ終えると二人分の食器を洗うために、彼女はキッチンへ向かった。

水音が止んだのが気になり、ぼくが近寄ると、彼女は包丁を握り、黒い瞳がじっと刃先をみつめている。

「切りたいの?」

「ええ。
変ね。今夜は少しだけで治まるかしら」

ぼくは食器を洗い終えると、彼女の手をとって寝室に入った。
サイドテーブルには、滑り止めのないカミソリが数本。
ティッシュに絆創膏。
それから、足つきのカクテルグラス。

ベッドに並んで座る。

「こっち?」
カミソリを手にしてぼくが言うと、彼女は無言でうなずく。
左手首に押しあてて引くと、彼女の体が一瞬ビクつく。

一センチほどの傷から血があふれだし、下ろした手の指先までつたっていく。

彼女は切られていない右手でグラスをとり、最初の一滴を受け止めた。
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