Nocturne
周囲の優しさ
「おはよう、樹里」
エプロンを付けているお母さんが階段付近に居た。
「おはよう、お母さん。私、もう出るね」
「あら、今日はいつにも増して早いのね」
「うん、テストとか近くなってきたしね」
「…そう。はい、お弁当」
「ありがとう。じゃあ、行ってきます」
多分、きっとお母さんは私が変なことに気が付いてる。
だけど、言わないのは優しさ。
…私は常にみんなの優しさに甘えてる。
いけないとわかっているのに、甘えてしまってる。
―――それも、無意識に。
「…しっかりしなきゃ、ダメだ」
自分に渇を入れて、後二年弱。
頑張って、彼に少しでも近づけるように。
私がそう思っていると、
―――目の前に車が止まった。
「…あ…」
また、だ。
―――――黒のBMW、“た”の87-02。
ん…?
87-02…?
皇の、お父様じゃない…?
なら…誰……?
そう思っていると、
「…貴女【あなた】が、成瀬 樹里様ですか?」
高級そうなスーツをビシッと着こなしている、ちょっとやり手そうな人。
この人――――。