タイトル未定
第1章 終わりの中の始まり
1.
「池上くん。君に今月をもってΝ営業所へ異動との辞令が出た。すみやかに準備に取り掛かるように」
あの日、私・池上紫織にそう告げてきたのは、本社であるココ東京ですら、めったに顔を合わせることのなかった取締役員の1人だった。
入社式では顔合わせした認識はあるだろうけど、それ以来会う機会すらなかったのだ。覚えていたとしたら、すごい記憶力だ。
辞令を言い渡されてから1ヶ月と経っていない今でさえ、記憶はおぼろげになっている。
私は今日、その辞令どおりΝ営業所が所在している県へと旅立つ。
荷物は色褪せた中型のアタッシュケース1つ。もちろん、これだけが荷物の全てではない。
でも今日はこれ1つで充分だ。もう他の荷物は、すでに取り纏めて向こうに送ってあるからだ。
まだ1度しか立ち会って見ていない、これから私の住み家になるアパートの一室に。
東京駅中央に位置する新幹線の改札口を通り抜けていく。
1年前は、この改札口を今と逆方向に抜けていった。
今は懐かしい大学卒業と共に胸を踊らせて、東京駅を駆け抜けていた私。
今の私とは、まるで雲泥の差の姿。
もうどうしようもない事は分かっているのに、思い出は想像よりも強く、この胸を締め付ける。
(……ごめんね、バイバイ。あの頃の私)
妙にセンチメンタルになりつつある気持ちを、少し引き摺りながら、私は颯爽と目的地へ向かう新幹線へと乗り込んだ。
「池上くん。君に今月をもってΝ営業所へ異動との辞令が出た。すみやかに準備に取り掛かるように」
あの日、私・池上紫織にそう告げてきたのは、本社であるココ東京ですら、めったに顔を合わせることのなかった取締役員の1人だった。
入社式では顔合わせした認識はあるだろうけど、それ以来会う機会すらなかったのだ。覚えていたとしたら、すごい記憶力だ。
辞令を言い渡されてから1ヶ月と経っていない今でさえ、記憶はおぼろげになっている。
私は今日、その辞令どおりΝ営業所が所在している県へと旅立つ。
荷物は色褪せた中型のアタッシュケース1つ。もちろん、これだけが荷物の全てではない。
でも今日はこれ1つで充分だ。もう他の荷物は、すでに取り纏めて向こうに送ってあるからだ。
まだ1度しか立ち会って見ていない、これから私の住み家になるアパートの一室に。
東京駅中央に位置する新幹線の改札口を通り抜けていく。
1年前は、この改札口を今と逆方向に抜けていった。
今は懐かしい大学卒業と共に胸を踊らせて、東京駅を駆け抜けていた私。
今の私とは、まるで雲泥の差の姿。
もうどうしようもない事は分かっているのに、思い出は想像よりも強く、この胸を締め付ける。
(……ごめんね、バイバイ。あの頃の私)
妙にセンチメンタルになりつつある気持ちを、少し引き摺りながら、私は颯爽と目的地へ向かう新幹線へと乗り込んだ。