お義兄様は官能小説家?!(仮)
「はい、亜梨香はジュースね」
空のグラスに、並々とジュースが注がれてゆく。
中身はもちろん、あたしの大好きなオレンジジュース。
いつも飲んでいるものより少しお値段の張るそれは、とても綺麗な朱色をしている。
「うん」
手渡されたグラスを受け取る。
お義兄ちゃんは自分用にお酒を用意すると、にっこりと微笑んでこう言った。
「誕生日おめでとう、亜梨香」
「ありがとう、お義兄ちゃん」
大好きなお義兄ちゃんからの、祝福の言葉。
それをしっかりと噛みしめて、あたしもお義兄ちゃんに微笑む。
「あ、ちょっと!二人だけで進めるなんて、酷い!」
「そうよ、私達も一緒に乾杯、するんだからね!」
ようやく二人の世界から戻ってきたらしいお義父さんとお母さんが、慌てて駆け寄ってくる。
「わかってるよ。早く早くっ!」
家族皆に祝ってもらった、楽しい誕生日。
この時のあたしは、こんな幸せな日常がずっと続くと思っていた。
家族4人で、いつまでも。
ーそう、だからまさかあんな事になるなんて、思いもしなかったんだ…。