はなこさんのみせ〔完〕
はなこさん
制服はすっかり雨水を吸い上げて、走っているのか泳いでいるのか。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


濡れたスカートが足に絡まりつく。

いつもよりも力任せに、ぐちゃぐちゃの地面を踏みつける。


「……もうっ、ムカツ……」

呟くだけで口の中に雨が刺す。

雨脚は静まるどころか、ますます激しくなってきた。

学校を出るときからすでに、傘の森が道を塞いでいたはずなのに。


「……でも……」


嫌な思い出ほど、頭の中に何度も浮かび上がる。

 

悪夢を振り切ろうとして顔を上げると、雨のカーテンの先にぼんやりと緑の屋根が浮かんで見えた。

せめてあそこまでは頑張ろう。


走ることに少しだけ集中する。

これで、余計なことを考えずに済む。


「はぁっ、はぁっ、もう、無理っ」


息も切れ切れに、何とか軒下に倒れるように滑り込んだ。




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