ママが女に戻る瞬間(とき)
「部長、今日は帰ります。泊まりの用意していませんし」

恵美が孝一の顔を覗き込んで言った。

『泊まりの用意なんてしてくるな!』

断固拒否反応の明菜は心の中で叫ぶ。

「残念だなぁ。今度は泊まりでゆっくり飲もう」

明菜の気持ちなんてお構いなしの孝一にイライラしてしまう。

『私の事を全然考えていないんだから…』

「奥さん、今日はご馳走様でした」

「本当にご飯おいしかったです」

「素敵なお家にお邪魔出来た上においしい料理御馳走さまでした」

最後に恵美が明菜に丁寧に挨拶する。

「また是非いらしてください」

心にもない言葉を明菜は発した。

「はい。ありがとうございます」

恵美は笑顔で答える。

本当に来られたら嫌なのに…

表と裏ってあるとこんなにもやもやするもんなんだと

明菜の心はどっぷり黒に染まっていった。
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