聴こえる
井の中の蛙、井の外を知る。
1.その声の持ち主を
たまたまだった。
偶然だった。
会長に書類の整理は副会長の仕事だから、と押し付けられ、俺は特進科からスポーツ科を間にはさんだ校舎に足を運んだ。
特進科の校舎より大分古いその校舎は築60年の木造建物で、足を踏み出す度に廊下は悲鳴をあげている。
昼休みのためか、教室からは生徒達の声が聞こえる。果してそれを声と呼んでいいものか。喧騒が苦手な俺は足早に過ぎ去ろうとした。
その時、音楽が流れてきた。昼休みの放送なのだろうか。特進科にはないためわからないが、教室の中の生徒は聞いている様子がない。
そしてそのBGMがピタっと止まり、<声>が聴こえた。
『12時20分になりました。お昼の放送を始めます。』
辺りは静まり返っていた。
1.その声の持ち主を
見てみたいと思った自分に、気づかないフリをした。