聴こえる
2.今日から私
「…えと、…」
私の前でうずくまるそれは、頭を抱えて唸っている。
私には、朝はいつも中庭で本を読む習慣がある。今朝もいつも通り昨日栞をはさんだ場所から読んでいた。しかし3ページほど読み進めたところでそれは校舎の2階から落ちてきたのだ。
……人…だよね。
声をかけてみようと思ったのだが、話し掛けるタイミングを見失った。
何で2階から落ちてきたのか、とか、この人は誰なのか、とか色々考えていると、その人はゆっくりと立ち上がった。
「見てないで助けてくれないかなぁ。傍観とかまじないわぁ…」
「…っすみません!」
大袈裟に肩を跳ねさせて私は声を発した。するとその人は私の顔に自分の顔を近づけてまじまじと見つめた。
「君、1年?」
童顔だからなのか、この制服の着こなしからなのか、よく1年に間違われるが私はれっきとした2年だ。
「一応、高2です」
「……っ…へえ…こんな子いたっけ」
その反応に少しむっとしてしまう。確かに私は妹に比べたら地味だし、可愛くないし、友達より本が大好きな子だ。だけど、初対面なのにそういうことを言うのはどうなのだろう。高3ぽい雰囲気だから何も言えないのだが。
「…失礼します」
口下手な私はこの場から逃げだそうとした。しかしそれは妨げられた。
腕をつかまれたのだ。
「いいね!その声!気に入ったよ。放送部に入らないかい?」
いきなり何を言うのだろうかこの人は。
「放してください。部活は入らないって決めて…」
「ま、いいからいいから!部室おいで」
私が言い終わる前に私はその人に中庭から古い校舎へと引きずり込まれてしまった。