聴こえる
連れてこられた場所は、普通科校舎の2階の教室だ。さっき彼が落ちてきたところだろうか。窓からは中庭が見える。
入る時に[放送部]と書かれた板がドアからぶら下がっていた。室内には古い校舎には似合わない機材やマイクが置いてある。
「ようこそ放送部へ!」
「あなたが連れてきたんじゃないですか!」
つい、ツッコミを入れてしまう。
「いやぁさっきは悪かったね。うちの部員が大切な機材を投げたもんだから、…ほら」
そう言って彼が差し出した手の中に光る、ネジ。
「…ネジ一本のために飛び降りたんですか」
「そんな冷たい目で見ないでよ。うち部費でないからこれ一本でも大切にしないといけないんだ。」
彼はネジを机の引き出しにしまった。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は3年の藤木裕也だ。放送部の部長をしてます。よろしく!」
彼、藤木先輩が手を差し出してきて握手を求めたので私もそれに答える。
「えと、2年の宮嶋美咲、です。」
手を握ると、藤木先輩はにこりと笑って言った。
「じゃあ入部届け書いてくれるかな」
「………え?」
思わず瞬きをする。幻聴?
「え、じゃないよ。部員が2人だから次の決算までに1人増やさないと廃部なんだよ!そんな時に美咲と会えたのはまさに奇跡!さあここにサインを」
いきなり呼び捨て?とか思ったけど、私は必死に首を振った。
「私には無理です!口下手なので!」
「いや君なら出来る!僕らさっきから沢山話してるじゃん。それに、綺麗な声を持っている。その声に惚れた」
「えええちょっと待ってください。声綺麗とか惚れたとか冗談やめて下さい」
「冗談なんかじゃないよ?お願い!僕を救うと思って!」
ああそんなうるうるした目で見られたら…
2.今日から私
放送部になりました。
断り切れませんでした。
(出欠確認の時間だし戻ろうか)
(…はい)