聴こえる
6.こんなにも
私の役目が終わると、先輩に戻ってお弁当食べていいよと言われたので私は足早に教室へ向かう。
あの文を読むのに、どれだけ心をこめただろうか。今まで、人と接するときにこれほどまで心をこめて話しただろうか。今まで話した人たちに、私の言葉は届いていたのだろうか。
何故か、無性に悲しくなった。目の前がにじむのがわかった。ぐいっと服の袖で目をこすっていると、視界の端に特進科の制服を来た男子生徒が目に入った。
…うちの校舎にいるなんて珍しいな
随分と背の高い彼は、何かをする訳でもなく、空を見つめていた。少し様子のおかしい彼を気にかけるように私が見つめていると、不意に彼がこちらを向き視線がかちあった。
「…!!」
私が息をのむと、彼は気まずそうに目をそらし、資料室の方へ去っていった。
「かっこい…」
思わず口から漏れるほどその人はかっこよかったのだ。どこかで見たことがあるような気がするのだけれど。
*****
教室につくと、クラスメイトたちは、随分と騒がしかった。今も流れている藤木先輩の声は生徒の声に掻き消されている。同様に私のアナウンスなど聞いてなかったのだろうかと一人もくもくとお弁当を食べていると、ある一人の生徒がこう喋っているのが耳に留まった。
「それにしても、アナウンスの声誰かな?すごく綺麗な声だったよね!いつもの先輩じゃなかったから聞き入っちゃった」
その子は興奮したように周りの子に同意を求めた。すると周りもうんうん、というように首を縦にふる。
「明日もあの子がアナウンスするなら昼の放送聞いてみようかな!」
目の前が滲むのがわかった。
私の声は届いていた。
6.こんなにも
嬉しいと思うなんて。