大海の一滴
「お姉ちゃん、さっきはごめんね」
チラシを切り貼りして十枚目の入室許可証を作成していると、ノックなしで美和がまた入ってきた。
「美和、ちょっと言い過ぎたよ。五百円もお姉ちゃんにあげる」
美和がドアに張り付いて、こちらの様子を伺っている。
「別にいいよ。もう怒ってないから」
私は作業を続行しながら、あえて低い声で言った。
「本当? じゃあ、仲直りでいい?」
「まあ、いいんじゃない」
「じゃあ、中に入るね!」
美和は嬉しそうに、ベッドの横の、共同机に座った。言い忘れていたがこの部屋は二人部屋なのである。
「今日さぁ、学校でマリちゃんと鉄棒やったんだぁ。お姉ちゃんスカート回りって知ってる? スカートをね、こうやって、鉄棒に巻きつかせてそのまま回るの。それでね……」
椅子に座った美和は、ベッドの上で忙しく作業をしている私に向かってベラベラくだらないことを喋り続ける。
「そう言えば、マリちゃんのお兄ちゃんってお姉ちゃんと同じクラスなんだよね。マリちゃんは美和が羨ましいって言ってたよ。お兄ちゃんって優しくないんだって」
まあ、タケシ君がお兄ちゃんだったら、誰だって嫌だろう。
「でね、美和もマリちゃんの話聞いてて、やっぱりお姉ちゃんで良かったって思ったよ」
「あっそ」
別にどうでもいい話だ。
「ところで、お姉ちゃん何作ってるの?」
「……不要になったチラシをハサミで切って、小さくしてる」
「何で?」
「捨てる時、かさばらないから」
私は、全てをゴミ箱へ突っ込んだ。
「お姉ちゃんって、あったまいいね」
美和がはしゃいで椅子を揺すった。妹という代物は、あまり良い物ではない。
『妹って言うのはね、愛の結晶なの』
そう言えば、愛美ちゃんのママが艶かしく言っていた。
『まだ、愛美にも秘密にしているのだけれど、愛美にも妹が出来るのよ』
妹と言う代物はあまり良い物ではないけれど、きっと悪いものでもないのだろう。