大海の一滴

 渡辺さんはおどけて言ったけれど、くすくす笑ったのは愉快な仲間達の三人だけだった。
 渡辺さんは、不満そうに唇を噛んだ。先生が向き直る。渡辺さんをジッと見つめて、それからクラス中を眺めた。


 ごくり。
 私は息を呑む。


 もしかして、運命を切り開く瞬間が見られるかもしれない。


「黒板は落書きをするところでも、誹謗中傷を書き込むところでもありません。これは、小学一年生でも分かることです。それは学級委員長の渡辺さんなら当然知っていますね」

「もちろんです。でも、火の無いところには煙は立ちません。誰が黒板に書いたのかは知りませんが、私も塾の帰りに先生がホストっぽい人と夜一緒に歩いて、クラブみたいなところに入って行くのを見ました」


 ひそひそ、ざわざわ。




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