大海の一滴
第六章 ~Key Sentence~
REIKO
応接室のテーブルに、四人分の緑茶が置かれている。
どうしてお客様用の湯飲みは平たく丸い形をしているのだろう。
麗子はそんなことを考えていた。
「結論から申しますと、先生に謝っていただきたいのです。もちろん、私たちだけではなく娘達にもクラス全員の前で」
少し間をあけて、校長先生が口を開いた。
「他の皆様も同じお考えですか?」
「ええ、まあ」
水野さん、秋山さん、津田さんのお母様達が、歯切れの悪い回答をする。
この三人。
『あの人に嫌われたら引っ越すしかない』
そう話していた保護者グループだ。
「だって、そうでしょう? 私達の娘は、かおりちゃんの靴を探し出してあげたのに、夏川先生はお礼を言うどころか、靴を隠したのは娘達だと言ったんですよ。それに見つけた場所をかおりちゃんのロッカーの中と言ったのはかおりちゃんのためを思ってのことだったのに、それを嘘つき呼ばわりして。うちのまゆみは、可哀想に酷く傷ついて」
憤っているのは渡辺さんだけで、あとの三人は曖昧な顔を浮かべたまま、湯飲みの辺りを眺めている。
(やっぱり、親子は似ているものなのだわ)
昨日の黒板の落書きの一件を思い出し、麗子は思った。渡辺さんのお母様は更に喋り続けている。
「それにかおりちゃんって、高橋さんの娘さんでしょ? こういうことを言うのもあれなんですけど、高橋さんって、ねぇ」
「ええ、まあ」
「そうですね」
「ええ」
意味ありげに笑う渡辺さんに、うだつのあがらない顔を張り付かせ三人が相槌を打った。
「と、申しますと?」
教頭先生が、仕方なく尋ねた。